日本FIT会


「人と違う」は褒め言葉
高度な専門性が柔軟な働き方を開く

尾原蓉子

ohara 安部政権は成長戦略の一環として、女性の活躍を後押しする環境整備を打ち出しています。従来に比べて大きな前進と言えます。しかし、女性の活躍は誰かから「与えられる」ものではありません。どんなに環境が整備されても、本人に強い意欲と実行パワーがないと挫折してしまいます。

だから一番肝心なのは女性自身のエンパワーメントです。仕事をしていく上で多少の障害ははねのける力と自信が必要だし、それがなければ身に付けること。それがあってこそ、組織の中で自分を生かしつつ、貢献していける道が見えてくるはずです。

私が自分自身をエンパワーしていくきっかけとなったのは3度の留学でした。最初は高校2年生の時、交換留学生で米ミネソタ州に行きました。出発前に母が仕立ててくれた洋服を着て学校へ行くと、友達に「Yoko, so different!」と言われるのです。「変わってるわね」とけなされたのだと思い、次の日は違う服を着ていくとまた言われます。落ち込んでいると、ホームステイ先の妹が「何を言ってるの、それは褒め言葉なのよ」と言うのです。

そこで初めて、周囲の人たちが皆、いかに個性を大事にして他人と違う自分になろうと努力しているかに気づきました。働く人も、医師であれ清掃員であれ、自分の得意なこと、やりたいことをその時々にやれる形でやっている姿を見て、職業観が大きく変わりました。

初の大卒女子として旭化成に入社して数年後、キャリアパスの先が見えなくなりました。自分で自分を教育して専門性を身に付けるしかないと思い、米ニューヨーク州立ファッション工科大学(FIT)に留学しました。日本の企業では素人が何でもこなしているのに、ここでは細分化された数多くの分野にすべてプロフェッショナルがいることに驚きました。

素人を採用し、その会社流の管理ができるゼネラリストに育てるのが日本の組織。でも今後は少数のゼネラリストと各分野のプロフェッショナルで事業が遂行されるようになるでしょう。高度な専門性を持てば、より柔軟な働き方への道も開けます。

旭化成の繊維関係の会社役員を経て、業界の人材育成を担うIFIビジネス・スクールの学長に1999年に就任。その直前、米ハーバード大学の経営者向けコース(AMP)を10週間受講しました。受講者のうち米国人は5割弱なのに、話題や思考は常に米国が中心。非英語圏からの受講者は違和感を覚えていました。

卒業式に生徒代表でスピーチをすることになった私は、冒頭の30秒間を日本語で話すことにしました。皆が呆気にとられて静まり返る中、非英語圏の人間には異文化を理解するための苦労があったこと、米国は異なる文化と価値観が存在することをもっと認識してほしい。そう話し終えると米国人の同級生が一斉に走り寄ってきてくれました。文化や価値観の違う人に物事を伝えるのは難しいけれど、努力と工夫で必ずできるという自信になりました。

この7月に、ファッション業界で働く女性を支援する一般社団法人WEFを立ち上げました。日本の企業社会に新しい価値観による変革をもたらすためにも、主体的に動いていく女性をリーダーに育てていきたい。これからの大きな宿題です。(談)

 

「日経ビジネス」2014年9月1日号より(掲載許可取得済み

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