日本FIT会


日本FIT会主催のFITセミナー第3弾
「オムニチャネル時代のファッション・ビジネス」が
2013年3月21日に開催されました。

 

受講者募集のチラシはこちらに・・・

 

セミナーのテーマは「オムニチャネル時代のファッション・ビジネス―ブランディングと顧客エンゲイジを成功させるソーシャル・メディア活用法」です。受講者は 170名、会場の六本木アカデミーヒルズのオーディトリアムに補助席を入れるほどの大盛況でした。参加くださった皆様に厚く御礼を申し上げるとともに、「オムニチャネル」という、小売業を大きく変革する新たなビジネスのやり方に関心を持たれる方が多い事を、主催者として心強く感じました。

 

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熱気に包まれた会場の様子

受講者アンケートの結果(1/2)「受講の目的、理由」・・・

 

講師には、ニューヨークのFITからテッド・チャクター氏をお迎えしました。また、「オムニチャネル」という言葉と概念が、日本ではまだ十分理解されていないことから、セミナーは3部構成とし、チャクター氏の基調講演の前後に、第1部として「オムニチャネル時代とは」を大島 誠氏に日本語でお話しいただき、また同時通訳で行われたチャクター氏の講演の後に、第3部として、Q & Aセッションをもうけ、FITの卒業生でもある中嶋茂夫氏がコ―ディネーターで会場から活発な質疑を受ける、という形で行いました。

セミナーの冒頭には、日本FIT会会長の尾原蓉子がセミナーの狙いを、次のように述べました。「現在米国では、モバイル(スマホやタブレット)の急速な普及と、先行企業の革新的な取り組みによって、「オムニチャネル」が小売業を劇的に変えつつある。これに対し、日本は大きく遅れをとっており、このままでは、IT装備の消費者の期待にこたえられないばかりでなく、アマゾンをはじめとする海外企業との競争(日本市場での)にも敗北しかねない。」

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日本FIT会 会長 尾原 蓉子

 

セミナー受講者の満足度は非常に高く、アンケートの集計では、「セミナーの全体としての満足度」が9割以上また、「全く新しいオムニチャネルという概念が、よく理解できた」、「これから何をなすべきか、が分かった」等の声が多く寄せられました。

 

受講者アンケートの結果(2/2)「総合評価」・・・

 

 

セミナーの内容は、以下の通りです。

<第1部:「オムニチャネル時代とは」>

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講演中の大島 誠氏

 

講師の大島 誠氏は、日本でのオムニチャネル推進の第一人者で、長年にわたって外資系 IT 企業で日本の小売・流通業のためのソリューション・スペシャリストとして活躍されて居られる方です。講演はまず「オムニチャネル」とは何か、その本質は? といった基本的、かつ奥深い意味合いを、<オムニチャネルの構図>を使って分かりやすく説明されました。小売業と顧客の関係が、時代とともに「シングルチャネル(店舗と顧客の単一接点)から「マルチチャネル(複数接点)」へ。さらに「クロスチャネル(ネットで買って店舗で受取り、などのチャネルの交差が可能)」になり、そして「オムニチャネル」へと発展してきた経緯です。「オムニチャネル」が他と全く異なるのは、それが“シームレス(チャネル間の境目が無い)”なこと。また、“チャネル横断型の商品・顧客・販促管理”、すなわち、商品在庫の一元管理と、顧客情報(購買履歴を含む)の一元管理、また販促管理との連動ができるようになることです。

大島氏の「オムニチャネル時代の忘れてはならないキーワード」8項目は下記です。

  1. シームレス(業種・業態の垣根なし)
  2. 神出鬼没なお客様(いつ、どこに現れるか分からない、つかめない)
  3. スマートフォーン、タブレット端末(革新的役割)
  4. 生活に密着(Walgreen事例:“角の店”がやってくる)
  5. 4Rから5Cへ = マーケティングは真の消費者・生活者視点へ従来のアプローチ = 4R(Right Product, Price, Place, Time)5C = Customer, Content, Community, Commerce, Context、へ
  6. リアル店舗の重要性
  7. 人材
  8. 「楽しく」「わくわく」「おもてなし」

オムニチャネルの本質を大島講師は、「単なる O 2 O といった、ネットとリアルの融合戦略だけではない。『オムニチャネル』を推進すればするほど『リアル』が実は重要になる。リアル店舗は、その特性を活かす事が重要。リアルならではの『おもてなし』でいかに楽しくショッピングをしてもらい買っていただくか。そのためには、接客とそれに当たる人材が非常に重要」と強調されました。

 

<第2部:基調講演>
「オムニチャネル時代のファッション・ビジネス―ブランディングと顧客エンゲイジを成功させるソーシャル・メディア活用法」

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講演中のテッド・チャクター教授

 
基調講演の講師は、このセミナーのために米国から来日した、FIT のテッド・チャクター教授でした。チャクター氏は、米国で広告・マーケティング業界のエグゼクティブとして活躍されたのち、FIT の教授に就任。引続きマーケティングとソーシャル・メディアの先端動向を的確に捉えながら企業のコンサルタントも勤めている方です。

講演はまず、(1)米国におけるEコマースの急拡大の現状から始まり、次いで(2)ソーシャル・メディア(日本で言うSNS)の米国および世界での普及の実態、(3)ソーシャル・メディアの種類と特徴および効果的な活用法、(4)オムニチャネルに取り組む際に必要な目的の明確化、(5)企業事例、と続きました。

 

(1)米国でのEコマースの拡大:

米国では、19世紀からカタログによる通信販売が広く利用されていました。Eコマースはその進化形として発展し、いまや消費者がネットでの買い物に慣れたばかりでなく、その利便性ゆえに、今後もさらに利用を拡大すると予測されています。図に見られるように、Eコマースは、2012年で 2242億ドルに達したと見込まれており、2016年には3620億ドルになると予測されています。増加を加速するのは、チャクター氏によれば、消費者が複数のデバイスを使って多数のチャネルとつながること、および、新たにオンラインに進出しEコマースチャネルを推進するブランドが増加するため、といいます。

 

<米国におけるEコマース取引の売上総額> (単位10億ドル)

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E コマースのカテゴリー別総売上額を見ても、トップは「音楽・ビデオ」の879億ドルですが、アパレルや家庭用家具インテリア関連商品が、(当初は「現物を触らないでは買えない商品」と考えられたにもかかわらず)それぞれ第 4 位、第 5 位を占め、金額も「アパレル・アクセサリー」で785億ドル、「家庭用家具インテリア関連商品」で783億ドルになっています。E コマースは、もはや米国では日常生活に欠かせないものになってきているのです。

 

(2)ソーシャル・メディアの米国および世界での普及の実態:

ここでは、日本に関する驚くべき数字が紹介されました。図に見るように、世界各国ではソーシャル・メディアの活用がかなり進んでおり、日本の利用者の対人口比率は58%と大きく遅れをとっています。2011年のデータではありますが、主要国では中国(ソーシャル・メディアを政府が規制している)の53%に次ぐ、最下位から2番目に位置します。これはComScore Media Metix 社が2011年10月に報告している43カ国の調査結果ですが、主な国をみると、米国の98%、英国98%を筆頭に、フランス、ドイツ、ブラジルなど、すべて90%以上の普及率。アジア諸国でも、香港、インド、インドネシア、シンガポール、いずれも90%を超えています。ロシア、韓国、ベトナムでも80%台です。日本での普及率が他の国と比べて低いのは、「自分の名前を出して意見を言う」ことに慣れていないこともあると思われますが、若者への普及が加速していることから、拡大は時間の問題と思われます。また企業側がソーシャル・メディアを積極的に活用することにより、その意義を消費者が理解する、という卵と鶏の関係にあることも事実です。

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ソーシャル・メディアには多くの種類があり、それぞれ特徴があります。下記は、各種のソーシャル・メディアのアイコンです。(FITセミナー資料より)

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米国で最も使われているソーシャル・メディアは、下記の表で見られるように、Facebook、 Youtube、 Twitter、 Pinterest ですが、日本では、アクセスの多さ順位に、1. Twitter、2. Facebook、3. Mixi が利用されています。

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米国においてソーシャル・メディアを利用する利点は、次のようになっているとのことです。(マーケティング関係者への調査: % はそれが重要と答えた人の比率。 出所: Social Media Examiner, 2011)

1. 会社への注目度向上( 85% )、2. 集客・来訪者増加( 69% )、3. 的確な手掛りの取得( 58% )、4. 検索エンジン順位上昇( 55% )、5. 新規取引先獲得( 51% )、6. マーケティング経費削減( 46% )、7. 売上増加( 40% )

 

(3)主なソーシャル・メディアの特徴:

  • Facebook = ブランドの露出という点では、ブランド・ページの効果は大。顧客とのコミュニケーションの面では、ファンの引き込み、懸賞やコンテストなど、繋がるために最適。集客面では、シェアボタンでのページへの誘導は可能だが多数のクリックは期待できない。
  • Twitter = 露出面では、ホームページとの統合や、クチコミ的に顧客と繋がる独特なチャンスを提供。ブランドを目立たせる効果は大。顧客とのコミュニケーション面では、会話も可能だが、ソーシャル・メディア・ダッシュボードを利用し、キーワード検索で、人が喋っていることを確認するのが効果的。
  • YouTube = 露出面では、面白い内容のビデオでプロモートできれば、ウェブ上で最も強力なブランディングのツールとなる。顧客とのコミュニケーションでは、楽しませ、情報を与えるし、ブランドの提示が目的であれば、ビデオは早急に顧客をひきこむチャネルである。集客面では、トラフィックはビデオへ繋がる。それをホームページへ戻したければ、リンクが必要。

 

(4)オムニチャネルに取り組む際に必要な目的の明確:

オムニチャネルにおけるソーシャル・メディアの選択では、自社のオムニチャネル戦略の目標との兼ね合いで、有効なものを選ぶことが重要だとチャクター氏は強調しました。

オムニチャネルが、「あらゆるチャネル」、「顧客から見て360度の視野」を意味するからと言って、全てのチャネルに取り組まねばならないという訳ではありません。自社の戦略や、コミュニケーション手法の優先順位、資源(資金や人材)の制約等も考え、より適切なものを選択する必要があります。米国で企業が選択しているソーシャル・メディアを、多い順にあげると、 1. Facebook ( 82.4% ) 、2. YouTube  ( 41.9% ) 、3. Twitter  ( 36.5% ) 、となっています。(2012年 出所:emarketer.com )

さらにオムニチャネルの実施に当たっては、消費者の行動モニタリングが重要です。そのための KPI(重要経営指標)として、チャクター教授は5つ挙げています。重要経営指標とは、“企業のゴール(目標)へ向けた進捗状況を明らかにし、数量化できる手法”です。経営者が現状を迅速に把握し、速やかに行動をおこせるように、 複雑な要素を一つの指標であらわしたもの。対策としての行動をとれるものでなければなりません。

 

5つのKPI(重要経営指標)とは下記の通りです。

  1. コンバージョン率 = 来訪者に対する購買客の割合。
  2. 平均受注額 = 平均受注額は利益率に影響する。
  3. Visit バリュー = サイト訪問全体に対する利益の割合。
  4. 顧客ロイアリティ = 新規顧客の既存顧客に対する割合。
  5. 検索エンジンからの照会 = 業界平均に対する、検索エンジンからの照会の割合。

 

(5)オムニチャネルを実践している企業事例:

セミナーでは4企業が紹介されましたが、ここではメイシー百貨店を紹介します。

米国のみならず世界で最大の百貨店、Macy’s社の事例は、伝統的な百貨店からオムニチャネル小売業者に変換した象徴的事例として紹介されました。

メイシー百貨店が取り組んだオムニチャネルに関する施策を上げます。まず、顧客サービス向上のために店員にモバイル機器を支給。また在庫管理を効率的にするため商品には無線タグ(RFID)をつけ、店舗に無い商品はネット在庫あるいは他店舗在庫から‘顧客に直配’できる体制を作りました(2011年には、そのように直配された商品が700万点以上に上ったとの事)。

また、オムニチャネルとあわせて取り組んだ“My Macy’s 戦略”(顧客へのパーソナル化、ローカル化の戦略)に絡んで、異なる時間帯に買い物をする色々な顧客に対応するために、いつでもすぐに着替えができるデジタル・マネキンを用意しました。さらに、部門または日時によってビデオを編集できるよう、新しいビデオの放映システムを完備し、店頭でのショッピングをオンライン体験と似たものにする為、店内にキヨスク(顧客用端末)を設置しています。つまり、従来の店舗が、リアルとデジタルのブレンドに変わりつつあるのです。

これらと多様なPB戦略もあわせ、メイシーは、まさに「顧客セントリック」、すなわち“顧客が主体的に”店舗・モバイル・ネット・店舗キヨスクなど、あらゆるチャネルでシームレスに買い物できる体制を作り上げています。

その結果、オンラインの売上金額が2010年から2011年で40%増、2012年12月で51.7%増、2012年累計で40.4%増になったと言います。

 

<第3部:質疑応答>

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「質疑応答」のチャクター教授(写真:左)と中嶋茂夫氏(写真:右)

 
中嶋茂夫氏のコーディネートによるQ & Aセッションでも、活発な質問が呈示されました。中嶋氏は、ソーシャル・メディアのコンサルタントとして、中小企業の指導もしておられることから、質問に対するチャクター講師の答に加えて、日本の実情を踏まえた解説や、中嶋氏自身の経験に基づくアドバイスを加えて頂いた事が好評でした。

質問を一部紹介します。
「米国ではウォルマートやメイシー等の大手総合小売業がネット販売比率が高いが、日本では、それが低い理由はどこにあると思うか」との質問については、「自社が扱っている商品の在庫をリアルタイムで完全に把握できない現在の状態では、顧客に満足してもらえるネット販売は難しい。委託販売等の商慣習が障害になっているのでは」とのチャクター講師のコメントがありました。「その中であえてオムニチャネルに取り組むとすれば、差別性ある、すなわち価格競争に陥らない自社商品を増やすこと。大事な顧客を重視しサービスのカテゴリー化をする、などもできる。」とも。

「ネットやモバイルの使用に慣れていない、年配の顧客には、どのような取り組みをしたらよいか」といった質問もありました。チャクター講師は、「まずは、ネットでの買い物をし易くすること。心理的バリアを取り除くことが重要。たとえば、返品を容易にする。米国では、ボノボ社のように、1年後でも返品を受け付ける、あるいはノードストロムは3年前に購入したものでも、返品を受け付ける、などをしている。配送料を無料にすること、あるいは、顧客に対して『サイズや色などを多めに注文して、不要なものを返品してもらってもいい』と訴求する企業もある。」とのことでした。

 

<最後に>

「オムニチャネル時代」という、まったく新しいコンセプトを紹介し日本での取り組みを早めたいという狙いで企画しましたが、参加者の方々には、かなりのご満足をいただいたようでした。セミナーは、質疑も入れて3時間足らずの時間でしたが、アンケートで、「プログラムの組み立て」と、「各講師のプレゼンテーションの内容」、さらに「多くの資料」と「高レベルの同時通訳」、が高い評価をいただいた事を、主催者として大変嬉しく思います。

参加者の皆さま、関係者の皆様に、厚く御礼申し上げます。

(文責 尾原)

 
 

4月16日付の「繊研新聞」において、当セミナーが取り上げらました。
記事のpdfはこちらに(無断転載禁止)

 
 

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