FITとの出逢いは30数年前。ユニクロ第1号店出店よりも前、日本ファッションビジネスの黎明期、あるいはその後ぐらいの80年代中盤に旭化成FITセミナーに参加し、当時の世界代表企業から様々なことを学びました。Benetton、GAP、Limited、Marks & Spencerなど世界有数の企業と、形は違っても本質的に同じことができるはずと考え、学びの対象を世界に向け、様々な店舗を視察し、経営者に会って話してきました。SearsやK-martのように、失敗企業であっても一時隆盛を極めた企業経営者からは、分野を問わず学べることが沢山あります。日本の経営者は、もっと世界に眼を向け、グローバルレベルの優良企業から多くを学ぶべきだと思います。
今の日本をどう見るか。東日本大震災を経験し、日本はもっと良い方向に変化すると期待しましたが、残念ながら1年経過しても何も変わっていません。このままでは、官僚が支配する社会主義国になってしまいます。日本人の悪いところは、安心、安全、安定を求め過ぎるところ。特にファッションは、もっと冒険してもよいのではないでしょうか。
日本が20年間停滞している間に、世界はグローバル化しました。アジアに眼を向けると、この先10年に中国及びインド40億人の1/3が中産階級になる可能性があります。これは欧米の中産階級の倍以上。ここに大きなチャンスがあると思っています。
日本人の悪い癖は、なあなあ主義、集団主義、自分達だけでやろうとするところ。
日本人には、真面目さ、正直さ、忍耐力など、誇るべき長所も沢山ありますが、表に出さないところが欠点。個人も企業も長所をもっとアピールすべきだと思います。「真・善・美」という美意識やLuxuryな価値を見出す審美眼なども日本人の誇るべき特質。なのに、それを活かしていない。米国のように、ファッションもシステム化、産業化する必要があると思っています。日本人の悪い点は、最後まで話し合わず、うやむやで終わらせるところ。ビジネスは交渉事。意見が対立することを恐れず、本音で話し合い、強みをどう強化し、弱みをどう補完するか最後まで話し合うことが大切だと思います。
ユニクロは今期、売上9,500億円、営業利益1,500億円を見込んでおり、世界10ヶ国以上で2,200店を展開しています。店舗の半数をユニクロが占めていますが、残りはフランスのコントワー・デ・コトニエ、米国のセオリーなど。これら海外ブランドを買収した目的は、欧米市場で本格展開する為です。欧米市場で成功するには、地域本部をつくって現地社会の一員になり、現地人と共に成長することが大切だと思います。
但し、我々の主戦場は、今後欧米の倍以上の中産階級が生まれるアジア。目標は世界一なので、日本発ブランドとして、これからまさに”Gold Rush”を迎えるアジアでNo.1を目指したいと思います。
海外で成功する為に、出店以上に大切なのがブランドの確立。ブランドとは、良い企業をつくることと同義。ブランディングによる客との共感、絆づくりが不可欠。どんな思いで商品をつくっている企業か、顧客にどんな利益があり、どんな絆を築ける企業か、海外で表明する必要があると考えています。
ユニクロのブランドメッセージは、原宿店開店時に決めた「あらゆる人が良いカジュアルを着られるようにする、新しい日本の企業」。私は常々、誇大妄想狂になれ!人と違うことをやれ!と言っていますが、まさにその通り、対象顧客を特定せず、あらゆる人に対して、低価格・高品質の商品を販売する、世界で初めての企業になりたいと思いそう決めました。
ファッション業界は、益々グローバル化が進む。同種族は共存できないのが市場の法則。独自領域をつくり、そこで一番にならないと生き残れません。日本のDNAは何か、その中でグローバルに通用するのは何かを深く考え、アジアで唯一の先進国である点も活かして、勢力図が決まる前に、成すべきことを具体的に決め、全社員で実行するしかありません。
今後10年が勝負。我々は凄いチャンスを目前にしています。
私がファーストリテーリング設立時につくったメッセージは、「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」というもの。古い常識、業界慣習に囚われることなく、お客様の為に、日々どんなことができるかとの意識を全社員が持ち、顧客の声を聞くことが大切です。
最後に、若い頃に出逢い、常に心に留め、実践してきた、マクドナルドの創業者レイ・クロックの言葉を紹介したいと思います。
「事業の成功に必要なのは、大胆に、勇気をもって、誰もやっていないことを一番にやること」。これが自分の成功の理由です。道は自分で開いて下さい。