2010~11年にかけてニューヨークFIT美術館で『ジャパン・ファッション・ナウ』展を開催しました。来場者は6万5000人以上で、好評により会期を3ヶ月延長。ウエブ・サイトでは3万5000人以上が、総計で10万人以上が見たことになります。それだけ世界が、日本の文化とファッションに大きな関心を抱いている。日本企業は、もっとそこを突くべきです。
日本は千年以上にわたってファッションに携わって来ました。11世紀の平安京では「いまめかし」という、「目新しい」などの意味の言葉がいい意味で使われていた。清少納言は、人々がその季節で何色を着るべきかを知らなかった時に、いろいろと発言した女性です。
「わび・さび」は、審美的な「質素な、魅惑的な」のことです。18世紀の「いき」は、達人の技による「ハイセンスな、洗練された」の意味です。
日本の西洋化は、明治政府により戦略的に導入され、日本の社会を強化しようとしたものです。西欧のファッションと日本のファッションの関係はユニークで、洋服は和服と共存し、それぞれが社会的な機能を果たしていった。日本の芸術・文化は「ジャポニズム」として、ヨーロッパの芸術・ファッションにも大きな影響を残した。
時代は下って、C.ディオールのニュールックが入って来た時から、戦後のファッションがつくられて行った。「かみなり族」、「IVYリーグ族」などが生まれた。
1980年代の日本のファッション革命は最もラジカルであり、日本は世界のファッションに大きな影響を与えた最初の非西洋国となった。
イッセイ・ミヤケがアートとしてのファッションの新しいビジョンを提案した。コムデギャルソンの川久保玲は、フェミニンな美と、身体と色の関係の新しい理想を提案した。破壊的なファッションもあった。ヨージ・ヤマモトは川久保と共に、黒のオーバーサイズで非対称のアンドロジナスのスタイルを創っていった。
日本のアヴァンギャルドは、80年代を通してファッションを一変させた。世界のファッションを、永久に変えたのが日本のファッションであったのです。この80年代は、ファッションのみでなく、ウオークマン、色彩、寿司まで、日本のやることを世界が求めた。
その後、バブルがはじけ日本のファッションの影響力は減少したが、90年代を通じて日本のPOPカルチャーが世界を襲うことになります。世界の若者は皆、日本のマンガを読み、アニメを見て、ビデオゲームで遊んだ。
日本のファッションは、今も引きつづきエキサイティングで多様です。表参道、銀座、原宿、渋谷、アキハバラ(コスプレ)など、それぞれのスタイルをつくっている。
「Japan Fashion Now」展で私が提示した日本ファッションをご紹介しましょう。表参道風景を背景とするハイファッションでは、山本耀司は、デ・コンストラクションと黒から、ドレスメーキングの宇宙の探索をすることになる。彼はヨーロッパのオートクチュールなどに注目した。
川久保玲とコムデギャルソンの仲間達は、黒の7つのシェードから、視覚的なシンボルにピンクを使った。ピンクは日本のガールズ、かわいいロリータ文化の象徴であり、エロチックな色でもある。
高橋盾は「アンダーカバー」のデザイナーです。彼の審美性は、「かわいい」と「こわい」の隣り合わせのものです。
阿部千登勢は、sacaiブランドを1999年につくった。阿部は、パリでモンクレールと一緒にファッションのランウエイショーを行っている。こういったコラボは、日本のファッションの今後に重要なポイントになって行くでしょう。
matohuは堀畑裕之・関口真希子の夫婦が2005年に作ったブランド。日本の審美性に基づいた、より抽象的なアイディアを取り込んでいる。
メンズウエアは、日本のファッションで最もエキサイティングな分野です。N・ハリウッド、ジョン・ローレンス・サリバン、マスターマインド・ジャパン、フェノメノンなどです。THEビッグオーについては、アメリカのどこで買えるか、という質問を受けた。ミハラ・ヤスヒロは、すばらしい才能を持つデザイナーです。スポーツウエアのプーマも彼の見事なテキスタイルを使っている。
若者向けの原宿、渋谷スタイルのコーナーについては、ロリータやゴシック・ロリータのファッションとショーに、とても感激していた。h.NAOTOには、NYの国際的なシンポジウムで講演してもらった。すごく人気があった。NYの女の子がロリータファッションを着て、ファッションショーには800人と、立ち見が出るほどの人たちが来てくれた。アキハバラについては、コスプレ専門のプラットフォームをつくって見せた。西側でもファンが多い。
高品質なストリートウエアも無視できない。日本は、デニムで、世界の人々が最も欲しいと思う商品をつくっている。
ジュンヤ・ワタナベについて、コムデギャルソンのデザイナーですが、世界で最も才能あるデザイナーの一人です。彼はデニムでつくられたイブニングドレスを発表している。
日本は、やはりファッションの最先端です。しかし、今日の日本ファッションは、80年代のファッションとは大きく違います。単なるアヴァンギャルドではなく、それを素晴らしいアートに変容させる。ハイとロー、つまり、ハイ・ファッションとストリート・カルチャーを混ぜることが特徴です。それと共に、クラシックの服を完璧にする特徴があります。過去を土台に、日本は未来に向かっている。
ただ、一つの大きな問題がある。日本のすばらしいファッションを、どのようにして世界に伝えられるか、ということです。わたしからの提案は以下です。
1.日本のポップカルチャーに対する関心を活かす。
古いビジネスマンは、アニメは子供向けだと言う。これは間違いです。日本のポップカルチャーを使って、日本のほかの側面を西側に紹介すべきです。
2.日本に対する典型的な見方である「テクノロジーの国」を利用する。
例えば,ユニクロは、ヒートテックのような日本のすばらしい技術を使っている。西側の多くの人々は「日本はテクノロジーの国だ」と思っているので、NYのユニクロにも人が押し寄せている。
3.日本のサービス精神を生かす。
日本の店舗におけるサービスは世界一です。NYユニクロは、アメリカの販売員にも、日本と同じような素晴らしさと親しみを持って接することを教育した。これで、ユニクロの店は成功している。
では、どのようにして、これらを世界に伝えてゆけるのか?
例えば、ウエブ・サイトやEコマースで、消費者が簡単に買い物をできるようにして欲しい。ほとんどのEコマースのサイトは、日本語のみであり、外国人が使いにくい。そして、色々な国の人々に合ったサイズを揃えることも必要です。
日本人のデザイナーが、西側の会社とコラボレーションすれば、才能が最大化できます。sacai(阿部)は、すばらしいデザイナーで、モンクレアとコラボレーションした時から、多くの活躍の場が与えられた。
日本は、もっと西側に売るべきです。すごく洗練されて、高品質で、世界の最良なものは日本製だ、ということをもっとアピールすべきです。日本の美はすばらしい。他のどの国よりも、フランスより、イタリアよりも、日本人は品質に優れている。
高い品質のストリートウエアにも、このようなことは必要です。品質と細部へのこだわりがすばらしい。世界がもっとも欲しがっているジーンズは、日本がつくっているのですから。